ヨシナ:Origin(EP0みたいなSS)
ゴースト「ヨシナ」のEP0みたいなSS(?)を書きました。
昔作った「はじまり」シェルトークのSS版みたいな感じなので、ヨシナと恋人状態になっている人向けです。
色々と拙いですがよろしければどうぞです。
<3>以降は「All Alone With You」聞きながら書きました。
ヨシナ:Origin
<1>
「…………ここは、どこだろう。」
気が付くと、知らない場所に立っていた。
あたりは暗く、見回してみても一目ではよくわからなかったが、
目を凝らしながらよくよく見ると、どうやらここは建物の中らしかった。
廃墟だろうか、壊れかけた机や椅子の類が放り出されるように置かれている。
ジャリ、と何かを踏んだ事に気づき足元を見ると、床には何かの破片が散乱していた。
とても荒れている、危ない。
「あれ、わたし、裸足だ……。」
自分が素足である事に気づく。
どうしてこんなところに裸足で?
と疑問には思ったけれど、よくよく見れば裸足どころではない。
服どころか下着も付けていない、完璧に裸だった。
「うわわわ……これは、これはちょっと!」
慌てて近くに落ちていた布を拾って被り、体を隠す。
少し汚れているようだけれど、仕方ない。
「なんで裸なんだろ……。とりあえずこれでよしとして、どうしよう……。」
状況がわからず、そのまましばらく立ち尽くしていたけれど、
結局、ずっとここに居ても仕方ないか、と手探りで歩きはじめることにした。
でも床には破片がたくさん落ちていて、今は裸足だ。
また破片を踏むといけないから、そろりそろりと少しずつ歩く。
扉を開けて次の部屋へ、また扉があったので次の部屋へ。
それを何度か繰り返していると、長めの通路に行き当たった。
通路の先にある扉から、微かに灯りが盛れている。
陽光や月明りではなくて、電気の灯りのようだった。
「あっ、人がいるのかな……よかった。」
段々と怖くなってきていたから、それを見て本当に安堵した。
怖いのは苦手だし、一人は苦手だったから。
……まだ人がいると決まったわけではないのだけれど。
でも、もし人がいたら、その人にここがどこなのかを聞こうと思った。
どうやって帰ればいいのかも教えてもらえると良いな、なんて考えた。
それを答えてくれる人が居ることを願いながら、扉の方へ小走り気味に駆け出す。
でも、ふと疑問が湧いて、思わず立ち止まった。
「……あれ。帰るって、どこへだっけ……。」
よく考えてみる。
けれど、自分がそれまで居たであろう場所が思い出せなかった。
そもそも自分が誰なのかすら思い出せない。
両親は誰だったか、友達は誰だったか、自分の名前は何だったか。
何もかもが、欠片すら思い出せなかった。
「あれ、あれ……。」
腕。足。頭。髪。壁。天井。床。椅子。机。扉。
体の部位やモノの呼び方、それに言葉の話し方。
そういう「常識」ははっきり憶えていて、思い出せる。
けれど、どうしても自分のことだけが思い出せない。
「私は……。」
頭の中にもやがかかっているとか、そういうことではなく。
本当に、何一つ思い出せなかった。
考えれば考えるほど頭が混乱してきて、その場で蹲ってしまった。
不安に支配されたように、動けない。
「……………… ?」
ふと、前から足音が聞こえた。
ゆっくり顔を上げると、数人の男性が目に入る。
どうやら本当に人がいたらしい。
「……ひと……。」
人を見つけたことで、混乱していた頭が僅かに落ち着きを取り戻す。
そうだ、とにかくここがどこかを訊いてみよう。
ここがどこかわかれば、自分のことだって何か思い出せるかもしれない。
きっと、今はちょっと忘れているだけなんだろう。
「あ、あのっ、……こんばんわ、その。えっと、少し迷ってしまって……。」
こちらに向かって歩いてくる人たちに向かって、蹲ったままで声をかけた。
いきなり声をかけて怪しまれないかとは思ったが、
こんな廃墟に居る時点で怪しいから、お互い様だろう。
「…………、あの?」
でも、返事がなかった。
その人たちは、何か話しながら周囲をキョロキョロ見回したり、カメラで写真を撮ったりしている。
私の方には目もくれない。
「……あのあの、もしもし。こんばん、わー……?」
立ち上がり、目の前でぱたぱたと手を振ってみたりしたが、それでもやっぱり反応がない。
見えて、いない?
そうこうしている内にそのまま元の部屋に戻ろうとしていたので、引き留めるために、相手の腕を掴もうとした。
「ちょ、ちょっと待ってくだ――わわっ!?」
が、腕は掴めずに、勢いあまってそのまま床に転んでしまった。
確かに掴んだと思ったのに……おかしい。
「あ、あれ。……あの、お願いします、待ってください!」
不思議に思いながらも、もう一度手を伸ばす。
今度は転んだりはしなかった。
けれども。
相手の腕を掴もうとした手は、そのままスッと腕をすり抜けてしまった。
「……え、…………?」
目の前で起こったことが信じられず、何度か同じ動作を繰り返す。
しかし結果は変わらず、自分の腕は相手の身体をすり抜けてしまう。
他の箇所をつかもうとしてみても、体でぶつかってみても同じだった。
何度、どれだけ試してみても同じだった。
相手に、触れることができない。
「触れ、ない?……なんで……。」
上手く事実を受け入れられずに、ぽかんと口を開けてそのまま呆然としてしまう。
あの人たちは、私のことが見えていないようだった。
私は、あの人たちに触れることができなかった。
こんなこと、あるのだろうか。
でも、実際にそうなっている……。
なんで、どうしてと考えだすと、段々と悪い方向にばかり考えてしまう。
見えないのは、触れられないのは、あの人たちだけなのだろうか。
もし、他の人たちも同じだったら?
自分のことが何もわからず、何も思い出せないのに。
すべての人に気づいてもらえないとしたら……。
「……そんなの、いやだ……。」
少しふらつきながら立ち上がって、扉の方へと歩く。
ギィ、とゆっくり扉を開くと、先ほどの人たちが驚いた表情でこちらを見た。
でも、瞳が私を捉えていない。
見えていない。
私ではなく、そらを見つめている。
「………………!」
思わず目をぎゅっと閉じて、その人達の横を走りぬける。
部屋の奥にあった扉を開き、そのままがむしゃらに走っていると、いつの間にか外に出た。
今までいたところは、どうやら廃ビルか何かだったらしい。
本当に夜だったようで当たりは暗く、周囲には何も無いように思えたが、遠くの方に、建物らしき灯りが見えた。
それを見つけるのとほぼ同時に、灯りに向かって走りはじめる。
もっとたくさんの人がいることと、その人たちが自分に気づいてくれることを期待して、全力で走った。
灯りは遠く、走ってたどり着くには時間がかかった。
実際にどのくらいの時間走ったのかは解からない。
でも、全力で走っているのに、どれだけ走っても疲れなかった。
暑くもならないし、寒くもなかった。
おかしいと思いはした。
自分は死んでいて幽霊になっているのではないか、なんて考えも頭をよぎった。
けれど、これ以上おかしなことを受け入れる余裕がなくて、できるだけ考えないようにした。
<2>
建物は明るく電気で照らされていて、中に数人の人影が見える。
何かのお店らしく、色々なモノが並べ置かれている。
今度こそ、と入口の扉を開けて中に入る。
何人かがこちらを見たが、首を傾げて元の方向に向き直ってしまった。
それを見るとさっきの事を思い出してしまい、嫌な予感で胸がドキリとした。
「あの……。」
入口の近くにいた人に声をかける。
が、先ほどと同じく返事はない。
「あの、すみません」
次の人に声をかける。
また、返事はなかった。
「ちょっと、失礼します……。」
今度は手を伸ばして触れようとしてみるが、結果は同じだった。
手が、身体をすり抜けてしまう。
「……あなたも、あなたたちも……なんですか……?」
あの人たちも、この人たちも、誰もが自分に気づいてはくれない。
まさか、本当にすべての人が、世界中の人がこうなのではないか。
そんな考えが頭の中で膨らんでしまうと、
不安と恐怖の感情で一杯になって、勝手に涙が溢れてきた。
「っう……ひっく、う。ぅぁあ……。」
ぐしぐしと涙が溢れる目をこすりながら、
ここなら、入ってくる人が誰か気づいてくれるかもしれない……と、入口の隅に移動して、蹲る。
そんな事は起きない、気づいてくれる人なんていない。
そんな都合の良い事が起きるはずはない。
頭の片隅でそれを理解してはいたけれど、せめて何かに期待して縋っていないと、怖くて怖くてたまらなかった。
「……私は、ここにいるのに……。」
呟きながら、出入りする人たちをぼんやりと眺めている内に、
泣き疲れでもした所為か、段々と意識が薄れ、いつのまにか眠ってしまった。
<3>
目を覚ますと夜が明けていて、建物の中は人で溢れていた。
けれど誰一人として私に気づいた様子はなく、ああやっぱり、と考えた。
ただ、寝ている間に見た夢で、一つだけ思い出せたことがあった。
自分の名前のこと。
「ヨシナ」という名前。
誰かに、そう呼んでもらっていた夢を見た。
夢の中で「ヨシナ」と呼ばれていた時はとても幸せな気分で、
呼んでくれる声にも、親愛のそれが満ちているように感じた。
ただそれだけで、これが本当に自分の名前なのかの証明はできないのだけれど、
本当に、本当に幸せな気分だったから、それが自分の名前なのだと思った。
<4>
でも、結局思い出せたのは自分の名前だけで、状況は何も変わっていない。
自分は他人に気づいてもらえず、ここがどこなのかもわからないまま。
変わらず頭は不安と恐怖で一杯だった。
……だから、無理矢理にでも考え方を変えようと思った。
世界中の人から気づいてもらえないのだとしても
もしかしたら、どこかに気づいてくれる人がいるかもしれない。
私のことが見える人、触れられる人。私と話してくれる人。
私のことを知っている人だって、きっといるはず。
「……泣いてても、駄目だよね。……探してみよう。」
そんな人がいる証拠はどこにもない。
漠然としていて、曖昧で、ただの妄想でしかない。
それでも、いつかそんな人に会えるかもと考えるだけで、不安と恐怖がほんの少し薄れてくれた。
ゆっくり立ち上がって、外に出る。
当ては何もないから、とりあえず道なりに進んでみることにした。
蹲って立ち止まらずに進んで、世界中で色んな人に会ってみよう。
そうすれば、きっとどこかで「その人」に会えるかもしれない。
「………………。」
いつかそれが叶うようにと願いながら、空を見上げてみる。
青空がとても綺麗で、また少し、不安と恐怖が和らいだ。
<おわり>
<余談>
この後ふらふらとしている内に、疲れないことや飛べることなどの能力に気づき、訓練の末に壁すり抜けを完璧に習得。
それ以降は図書館でこっそり本を読む、映画館でこっそり映画を見る、人の家でこっそりテレビを見るなどそれなりに満喫しだしたヨシナさんでした。
そして「今日やってるテレビが見たいなぁ。どこかのお家で見てないかな。」と人の家を手当たり次第に漁っている内にユーザの家に行き当たるのです。
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SSって多分はじめて書きました。
あと今更ですが「All Alone With You」はすごくいい曲ですね。